BS特集 人類はがんを克服できるのか

今日のお雑煮会心の出来。昨日よりだしを濃いめにしたのが良かったみたいだ。

テレビを点けたら、たまたまやっていた番組が異常に面白かった。去年放送されたNHKスペシャルがん 生と死の謎に挑む」の内容に加えて、番組内に収まりきれなかった取材内容を追加した

BS特集 シリーズ立花隆 思索紀行 人類はがんを克服できるのか

の全3話連続再放送。見始めたのが第1話の終盤で、第2話と第3話はちゃんと観た。第1話もちゃんと観たかったので、NHKオンデマンドの見逃し番組サービスに登録してみる。古いMac miniWindows7 RCをインストールしていたので助かった。24時間レンタル(?)で315円、意外に高い。NHKに足元見られてるな。

とにかく、転移させない事。

  • 転移癌の治癒率は、ここ20年以上全く向上していない。
  • 癌は一度転移してしまうと、抗癌剤くらいしか治療法が無い。
  • 抗癌剤は、急性白血病悪性リンパ腫、精巣腫瘍、絨毛癌にはよく効く。
  • でも、それ以外の癌では、延命効果はせいぜい3ヶ月がいいとこ。
  • しかも、抗癌剤を服用すると吐き気やだるさ(倦怠感)がひどい。

抗癌剤が癌細胞に届かない。

癌細胞は血管内皮細胞増殖因子(VEGF*1)を分泌する事で、通常の血管より細い血管を、癌組織内に細かく張り巡らせる。この血管には血液が充分に行き渡らないため、抗癌剤を奥の方に送る事が出来ない。抗血管新生薬を使うとVEGFを抑える事は出来るが、確かに細かい血管は出来なくなるものの、中途半端に太くなった血管にはもう効かない。そのうち、癌細胞はVEGFと同じ作用を持つ別の物質を出す様になる。

癌細胞は移動して隠れる。

HIF-1と呼ばれる低酸素誘導因子*2蛋白質は、正常な細胞の場合、酸素で分解されてしまって細胞内に残らない。ところが、癌組織の様な血液が余り行き届かない所では、HIF-1が細胞内に貯まってしまう。すると細胞は新陳代謝の仕組みを変えてしまい、低酸素で死ななくなる上に細胞の移動能力が上がる。これにより、癌の浸潤、転移が始まる。

HIF-1は、数百の遺伝子の制御に関わっており、その中には生命維持に必要なpathwayもたくさんある。例えば、初期段階の胎児は血管がなく低酸素状態にあるが、その際にもHIF-1が重要な役割を果たす。HIF-1を阻害してマウスの癌を無理やり消して喜んでいたら、実は正常な細胞もやられている事が。

また、癌は免疫システムを悪用する。癌細胞がサイトカインを分泌して「炎症が起こった」という嘘の情報を流すと、マクロファージ好中球、リンパ球といった白血球樹状細胞などがすっ飛んできて、VEGFやプロテアーゼなどを分泌する。細菌などの異物はそれで駆除出来るのだが、癌の場合、周囲の細胞が壊されて癌細胞が移動しやすくなったり、血管が成長して癌組織の成長を促されたり、良くない方向に作用する。

癌細胞(例では白血病?)は、正常細胞の組織に簡単にもぐりこめる上に、正常細胞から栄養を供給されてもらえる。転移先の組織に癌細胞がもぐりこんでしまったら、血液検査にひっかからなくなる。

同じ癌でも、異常遺伝子は人によってばらばら。

癌ゲノムプロジェクトというのが始まって、50種類の癌に対して1種類500人以上サンプルを集め、全部のDNAで塩基配列解読を行っている。現在までに得られている結果でも、同じ乳癌なのに、患者によって遺伝子異常の場所と数が全然違う事が分かっている。同じ癌でも、遺伝子異常の細かいタイプごとに、別々の抗癌剤を開発しなければいけないかもしれない。下手すると患者一人一人ごとに。

癌幹細胞仮説

マウスに癌細胞を数十万個移植しても、腫瘍が出来ない事がある。そうかと思うと、少量の癌細胞で腫瘍が出来てしまう事もある。どうやら癌幹細胞という物がある様で、正常な幹細胞と似た様な働きを持っているらしい。どうも抗癌剤で死ぬのは癌幹細胞から分化して増殖した細胞だけで、癌幹細胞自体は、正常な幹細胞と同じく抗癌剤くらいでは簡単に死なない。

画像:Zoni

*1:vascular endothelial growth factor

*2:Hypoxia-inducible factors