GFPはもはや日常語 その2

分子精神科学研究チーム

統合失調症の感受性遺伝子*1(原因遺伝子)の一つとしてFABP7が特定された*2

統合失調症の患者はプレパルス抑制PPI)が低下する事が知られている。いきなり大きな音がするとびくっと驚いて筋反射が起こるが、大きな音を鳴らす直前に小さな音(プレパルス)を鳴らしておくと余り驚かなくなる。これが統合失調症の患者の場合、プレパルスがあっても相変わらず大きな音で驚いてしまう。

PPIに関連する遺伝子の探索は、QTL解析により行った。PPIの高い系統のマウスと低い系統とを掛け合わせ、孫の世代の1,010匹全部について、PPIと遺伝子配列を調べた結果の中から今回はFabp7遺伝子に着目。実際、Fabp7ノックアウトマウスを作ると、PPI低下を始め統合失調症に関連する症状が現れる。更に、マウスだけでは無くヒト統合失調症においてもFABP7が発症に関与している事を突き止めた。

Fabp7蛋白質は未分化な神経細胞で発現し、多価不飽和脂肪酸DHAアラキドン酸などと結合する事が知られている。Fabp7を制御しているPax6という遺伝子があるが、Pax6変異ラットの餌にアラキドン酸を混ぜると、確かにPPIが改善するらしい。*3

細谷研究ユニット

パルスタイミングによる情報コーディング

サンショウウオの網膜を使った実験。網膜は、眼を取り出してトントントンとやるとペロッときれいに剥がれる。剥がした後も組織としてちゃんと機能する上、入力の制御(光)も出力の測定*4も比較的やりやすい。で、OFF応答双極細胞が出力するパルス信号をよくよく調べてみた所、

  • 複数の入力を合成した信号を送っている様だ。1つの信号に複数の情報を載せて同時に運んでいる。
  • パルスの数は、入力の振幅の大きさを表している。

ちなみに網膜は視細胞の入力をそのままスルーで送っているのではなく、高度な情報処理を行っている事が最近知られている。隣どうしの視細胞に同じ信号が入ってきたら片方の情報を間引いたり、視細胞にずっと同じ信号が入って変化が無ければ情報を間引いたりして、網膜内で映像圧縮処理を行っている。

また、視線を動かすと視野内の景色全体が一斉に動いてしまう訳だが、視線が動く度にそのつど景色全体の情報が脳に送り直される訳では無い。視線に連動した景色の変化は、アマクリン細胞の1種、多軸索細胞(polyaxonal cell)が情報を間引いており*5、これも網膜内で処理が行われている。

大脳新皮質局所回路の同定・解析

大脳皮質は6層からなる層構造を取っていて、数十種類の神経細胞がある。今回、「脳幹の方に伸びていくタイプ」「前頭の方向に伸びていくタイプ」2種類の神経細胞を染め分けてみた。同じ種類の神経細胞どうしが繋がった鎖状の構造が繰り返し並んでいる。

神経細胞の接続先を調べてみると、神経細胞は鎖内ではお互いに結合していて、鎖と鎖の間は繋がっていない事が分かった。これは、大脳皮質が鎖を1ユニットとした繰り返し構造を取っている事を示唆している。この研究成果は素晴らしい。脳の神経回路網はもっとぐちゃぐちゃだと思っていた。

*1:発症の要因や関連遺伝子が複数あり、保有する遺伝子と環境要因との相乗作用で発症リスクが高まる、という意味で遺伝学的には感受性遺伝子と呼ぶ方が自然。糖尿病の例が分かり易い。
http://www.torii.co.jp/health/lifescience/pdf/40_6.pdf 参照。
原因遺伝子というと、なんか保有していれば必ず発症するというイメージがある。

*2:http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2007/071113/detail.html 参照

*3:http://www.jst.go.jp/pr/announce/20090408/index.html 参照

*4:パッチクランプ法でガラス電極に繋ぐ。

*5:http://www2s.biglobe.ne.jp/~kam/kisoseibutsu/sRetinas_tricks.pdf 参照