m-ECT
日経ビジネス 2008/06/02号「診察室」の記事は『重度の鬱病に電気治療』。頭に電気ショックをかけるなんて、戦隊ヒーロー物で悪の組織が拷問する時だけにしか使われない、と思っていたがどうやら違う様だ。重度の鬱病や統合失調症の治療に使われている。
色々調べてみると*1、昔は麻酔無しで100V交流の正弦波(サイン波)を流していた様で、全身が痙攣して失神、しばらく呼吸が停止するなど、妙に後味が悪い治療だった。現在は、全身麻酔と筋弛緩剤を使ったm-ECT(修正型ECT*2)が、徐々に徐々に徐々に主流になりつつある。
治療の流れ
- 1回の治療は1時間程度。
静脈麻酔、気管挿管(酸素吸入)、筋弛緩剤、マウスピース。
実際に電気を流すのは数秒間。
- これを週2〜3回行う。治療は6〜12回で一区切り。
あくまで目安だが、一区切りで入院期間40日、自己負担10万円。
メリット(pros)
- 即効性
薬物治療に比べて短期間で改善する。
- 個人差はあるが、薬物治療より効果が高い。
劇的に改善する事も少なくない。
抗精神薬が何一つ効かない人でも、効く事が多い。
- 保険が効く。
- 死亡率は5万分の1。どちらかというと全身麻酔の危険の方が高い。
デメリット(cons)、副作用
- 血圧上昇、不整脈 →30分ほどで治まる。
- 頭痛、めまい、吐き気、筋肉痛、発熱 →1日ほどで治まる。
- 記憶障害 →通常、数日から2週間ほどで回復する。
治療前後の事は忘れてしまう事がある。
- 入院しないといけない。
- 再発はする。ただ、再発してもまたECTを受けると治まる。
- 死亡率5万分の1とはいえ、死ぬ人もいる。
サイマトロン
2002年に日本でもパルス波刺激の治療機器、サイマトロン(thymatron)が認可された。サイン波刺激に比べて、脳へのダメージが少なく記憶障害が起こりにくい。以前の治療法では、副作用の記憶障害がひどくて社会生活に支障を来す、という例もあった様だ。
何故効くのか
未だに良く分かっていない。元々「癲癇患者は統合失調症にかからない」という学説があって、この考え方に基づいてECTが考案されたが、今ではこの学説は否定されている。間違った学説とはいえ、この考え方に基づいて以下の治療法が生まれた。
- 1927年
Manfred Joshua Sakelが、インシュリンショック療法を開発。
低血糖発作で痙攣を起こす。効果はあったが危険な療法。
- 1930年代
Ladislas J. Medunaが、樟脳やmetrazolによる治療法を報告。
- 1937年
Ugo CerlettiとLucio Biniが、ECTの実験を行う。
TMS、rTMS
近年、TMS(経頭蓋磁気刺激)という治療法が確立されてきている。要は、頭に直接電気を流すのではなく、頭にパルス磁場をかけて渦電流を発生させるという物。Magstim Rapid2とか。
- 痙攣を起こさないので、麻酔が必要ない。入院の必要がない。
- 記憶障害も起こらない。
その反面、
- 磁場をかけると、低周波治療器みたいに筋肉がピクつくのが何か嫌。
- 磁場をかけると、バチッといううるさい音がするのが何か嫌。
- 治療目的でTMSを行う場合、保険が効かない。
検査目的のTMSは保険が効くらしい。
1回5000円-10000円で合計10回が目安?
- 噂では、重度の鬱には余り効果がない。
- 噂では、TMSが効かない人が結構いる。
- でも、噂ではrTMS(反復TMS)は効くという話も。
3連発以上のパルスをかける。
画像:Hydrangea Macrophylla Ayesha ( Uzu Ajisai ) / Jun. 07 2008