養老天命反転地 7月9日

養老天命反転地に行った事は?」『無い』「それはいかん」

噂では「下手すると転んで怪我をする」所らしい。早朝はどしゃ降りだった。「雨降っちゃったんで、さすがにちょっと危険」いきなり来た。入場券を買うと「雨で足下が滑り易くなっているので注意してください」

擂り鉢状の庭園に向かってコンクリートの傾斜を登る。
「そっちから登ると滑るから、こっちに回って」
監視員のおじさんの指示に従って登る。養老天命反転地がオープンした頃は緑にあふれ、庭園のどこにでも自由に行けたし、監視員はいなかったらしい。芝生はすぐに剥げ落ち、もみの木は見る見るうちに伸び、オブジェはほころぶ。10年の歳月を経て荒んだ大地。

庭園に降りて行く前に監視員さんが説明する。

  • 「なるだけ尾根を伝って歩けぇ」
  • 「緑のマットの上を歩くと滑るから歩かないね」
  • 「もし歩かないといけなくなったらカニさん歩き」
  • 「あそこの地図は字の上を歩くな〜、吹き付けのペンキは危ない」

彼は以前、飛騨の山奥でマタギをして暮らしていた(妄想)。43年間獲物を追い続けたハンターの研ぎ澄まされた嗅覚で危険を嗅ぎ分ける。幾度と無く生死の間を彷徨い、危険を知り尽くした彼の指示は魂を打つ。魂を打つけど、それでも何度か転んでしまう。

「切り閉じの間」に入る。迷路になっている。真っ暗で何も見えない。なかなかどこにも辿り着けない。虫とか出たらどうする。目が慣れても真っ暗で何も見えない。闇の中で命のともしびが消え行く不安。緑色の通路が現れて、緑色の部屋で行き止まり。友人の声は近くから聞こえる。いまにもぶつかりそう。入り口に戻らないと出られなさそうだ。

ここのテーマパークのコンセプトは、起伏に富んだ自然の中で身体感覚に目覚めるというものだと理解していたが、はっきり言ってここは、全てが容赦ない。身の危険を感じる。生命観を根底から覆された感じ。グッズのTシャツに「We have decided not to die」と凄い事が書いてあったが、Tシャツを作った時点では、ここまで洒落で済まない事態になるとは思っていなかっただろう。

監視員のおじさんがもう一人。君たちは大きな忘れ物をしている。何で彼女を連れて来ない。そこから始まって人生の意味深な話。

万博はそれはそれで印象的だったが、ここは衝撃だった。ああ、そうか、まだ死んでいないんだ。来てよかった。荒川修作先生が8月にも訪れるらしい。是非雨の日に来て欲しいものだ。

昼ご飯を食べて帰る。どて串は赤味噌でなかなかどぎつい感じ。地ビールの「柿ラガー」は、干し柿の味がほのかにする。アマゴの入った天命そばはなかなかおいしかった。

画像:Site of Reversible Destiny-Yoro Park, Yoro, Gifu, Japan / Jul. 09 2005