「あなたのマンションが廃墟になる日」山岡淳一郎

「あなたのマンションが廃墟になる日」(草思社)2004/04/05発行

NHK BS2の「週刊ブックレビュー」で以前*1紹介されていた。粟国島に行くフェリーで潮風に吹かれつつ読む。あるいは那覇から名護市に向かう高速バスで。

マンションを購入。築三十年になって何とかローンを払い終わった頃に、立て替えの話が持ち上がる。コンクリートの亀裂、給水管/排水管の老朽化に伴い大規模な補修・修繕が必要なのだが、それなりの金額が必要。三十年のうちにマンションの設備も時代遅れになってくる。中古価格も下がる一方。

ところが、国の土地開発計画で容積率建蔽率が緩和される。高層マンションに建て替えて、住戸数を増やして分譲すれば、「住民の自己負担無し」しかも家が「広くなる」。資産価値が上がるし、建て替えした方が得ではないか。

この本を読むと、話はそう単純では無い事が分かる。それどころか、上の考え方は政府の建て替え誘導政策に毒された固定観念である事が明らかになる。読んでいて憂鬱になる。

その中にもわずかながら希望の兆しが見られる。例えば全管連の試み。大規模改修を含め、それまでブラックボックスだった維持管理ノウハウの共有化。例えば青木茂建築工房の試み「リファイン建築」。基礎と骨格を残して解体、補強の後、空間を大胆に一から再構築。更にヨーロッパの常識。土地付き戸建て、賃貸の他に組合形式の「居住権付き住宅」という形態がある。メンテが行き届いて環境が整備されている家は新築より高い値段で売れる。

それでも、現在の日本は建て替えにまつわるこんな不毛なトラブルに溢れている。

賃貸に出していたり、マンションを抵当に街金融から資金を借りていたり、権利が複雑化。住民の合意が取れていないと寄り付かないデベロッパー。出て来た見積もりで自己負担が発生。建て替え決議が通っても、反対派の住居を時価で買い取る為の資金繰りが必要。建て替えても地価下落で資産価値は結局上がらない。