「木馬と石牛」金関丈夫

「新編 木馬と石牛」(大雅堂 1955 / 岩波文庫)1996/10/16発行
丸谷才一が勧めていたので気になって数年前に購入した本。京都までの新幹線の往復でやっと読み終わった。神話・説話の比較研究に関する小論集。

表題作『木馬と石牛』は、『トロイの木馬*1に似た説話が、「韓非子」(B.C.3世紀)や「華陽国志」(A.D.4世紀)などの中国の書物に既に採録されている事を指摘したもの。『シンデレラの靴』では、ペロー*2やグリム兄弟*3で有名なシンデレラの類話が、段成式「酉陽雑俎」(860年頃)の中国を始め世界中で広く見られる事を紹介し、更には、結婚の際に相手に靴を履かせる各地の風習にも言及している。ヤマトタケルやカチカチ山などといった説話についても、各エピソードの元になった風習やその意味する所が考察されていて興味深い。

本書で引用される文献は和漢洋にまたがり、話題も硬軟多岐に渡る。後半には、文学に出てくる手淫や体臭の話、更には纏足の(意外な)効能といった、性にまつわる話も出てくる。文章には品があって、体臭の話で「わきくさ物語」「体臭文学」と書いてあっても、まさかそんなしょうもない駄洒落を書く様な人とは思えないので笑うのに躊躇するほどだ。

神話・説話の比較研究の分野ではフレイザー*4の「金枝篇」という本が古典的名著らしい。南方熊楠十二支考」も一度読んでみたい本。

*1:ホメロスイリアス」:Όμηρος「Ιλιάδα」B.C.8世紀

*2:Charles Perrault
「Histoires ou contes du temps passé, avec des moralités: Contes de ma mère l'Oye」1697

*3:Brüder Grimm「Kinder und Hausmärchen」1812 初版

*4:James George Frazer 1858-1940