モブ・ノリオ『介護入門』

読書は元々興味はあるけど苦手で、芥川賞ものは町田町蔵が取ろうが(石原慎太郎激賞)、綿矢りさが取ろうが手に取る事は無かったのだが、最近何となく読書づいているので今度はなんか読めそうな気がして買ってみた。

介護は、無職ながら30目前の主人公が全生活を注ぎ込むに値するテーマなのか、そこに救いはあるのか。

山田詠美の評「麻呂顔なのに、ラップもどきをやっちゃってる」の様に、意外と古風な文体。ただし新聞でもラップ調と言われているが、ラップ調でもラップもどきでも無いと思う。語りかけ口調の中に「YO、朋輩(ニガー)」「FUCKIN」等のフレーズが入るけれどもあくまでも語りかけであって、基本的に5、6行ごとに文体を変えていく中の一つのスタイルにすぎない。作品中で言及されているバンド名もラップ系よりはロック系(90年代alternative)が多い。

段落ごとに文章の出来不出来が激しいのが欠点。特に作者自身を語る部分はうまく言葉にならない所を正面から無理に書いていて、非常にもどかしい。決して作者のもどかしい思いがうまく伝わっている訳ではない。最初に出てくる「YO,FUCKIN、朋輩」も時々挿入される介護入門の心得数箇条も外し気味。しかしストーリーを語る時は打って変わった様に魅力あふれる文章に変貌する。なかでも百姓育ちの凶暴な「土人」である祖父の話2ページほどは、変化していく文体が効果的に働き、最も充実している。

介護ベッドの電動モーターの効能の話辺りから、ニューヨークで祖母の事故の連絡をうけた終盤の話の前まで37ページ中13ページは文章が割と安定していて比較的落ち着いて読める。介護という労働の充実。介護はもはや介護ではなく「狂信」ともいうべき信念に支えられた献身。介護の苦しみと孤独。皮相的な同情で祖母の人格を否定する無神経な親族への批判。「介護地獄」といってすますマスコミの嘘と無理解への怒り。照れが入りつつも直球ど真ん中ストレートで語られる家族愛。生の充実。

子育てという言葉が頭をかすめた。