「残光のなかで」山田稔

「残光のなかで 山田稔作品選」(講談社文芸文庫)2004/06/10発行
山田稔は、京都大学教養部でフランス語を教えていた先生で、小説家。
森毅の対談集「世話噺数理巷談(さろんのわだいにすうがくはいかが)」(平凡社・絶版 ※)で対談を読んで興味を持って、短編小説集「ごっこ」(河出書房新社・絶版)を、昔、学園祭のバザーで入手しました。大学を舞台にした不思議な人間模様とおかしなエピソード、学園紛争・授業・教授同士の付き合いの場で発揮される先生達の奇妙でしたたかな個性を、軽やかな文体で描いています。「ごっこ」の他には、彼が翻訳したアルフォンス・アレー「悪戯の愉しみ」(出帆社→福武文庫・絶版)も愛読しています。

山田稔は、その文体が魅力。短い文を畳み掛けるリズムと、長い文を緩急をつけて一気に読ませるリズムに小気味よさを感じます。「残光のなかで」に収められた短編は、『女ともだち』『リサおばさん』といったフィクションの小説以外に、『残光のなかで』『オンフルール』といったフランス滞在記、更に、実話のエッセイなのか私小説なのかフィクションなのか良く分からない『シネマ支配人』など計8編。

『メルシー』にみられる、パリのパン屋の愛想の悪いおかみさんに感じる病的なまでの悪意は、「ごっこ」収録の『学力互助センター』にも通じる得意なモチーフ。『糺の森』で腰椎牽引に行った病院の理学療養室の気だるい描写が妙にリアルな所も彼らしい。『糺の森』自体と『女ともだち』『リサおばさん』はちょっと毛色が違って、登場人物が熟年も終わりにさしかかったノスタルジックな味わいの地味な作品ですが、思い出とモノローグが、抑えめながらも小気味良いリズムの文体の中で錯綜して、感傷に走らず独特の魅力を感じさせます。

丸谷才一のエッセイが好きなのですが、丸谷才一の小説は、山田稔みたいな文体で書いてほしいところ。

※「世話噺数理巷談」は後に「森毅の学問のススメ」(ちくま文庫・絶版)と改題